ミッションインポッシブル~ラマダンを終わらせろ~

〇ミッションインポッシブル~ラマダンを終わらせろ~

病院での食事は朝8時、昼11:30、そして夜は5:30 だ。通常の人間からしたら無茶苦茶なタイムスケジュールだ。まあ朝はいいとして、8:30に食べ終わるともうすぐに昼食が運ばれてくる。腹が減るわけが無い。でもこれをちゃんと食べないと病人扱いされて小言を言われるのでかなり無理して食べるのだ。そしてまた夕方5:30からの夜食だ。8時頃食べていた僕からすると食テロだ。食べないと殺すぞという拷問なのだ。

そしてその後が激烈に長い!夜9時に消灯してからの朝8時まで地獄の時間が始まる。僕は特に大食漢でもなくむしろ少食の方だ。それでも5:30から朝の8:00までの絶食は相当キツイ。間食の多い僕は甘いお菓子などをポリポリ食べながら夜中までテレビを見て過ごすのだが、病院では水かお茶しか出ないのだ。もちろん患者の栄養を考えての食事なのだろうが、患者の健康よりも自分達の勤務時間の都合を優先させているのは間違いない。

そして今日も長いラマダンが始まった。

 

だが今日は違う! 3ヶ月に及ぶラマダンの日々も今日で終わりにするんだ!

おそらくイスラム教徒よりも強信な僕は1階のコンビニへ遠征し、食料品を確保するのだ。ようやく少し歩けるようになった僕は点滴棒を引き連れて潜入するのだ。そして今日がその決行日だ。

日曜日の6時半 医者もいなく看護師も少ない日曜日、そして昼勤と夜勤の看護師が入れ替わるミーティングの時間だ。何週間も前からリサーチ済だ。ここは6階、エレベーターに乗って1階まで辿り着かなくてはならない。もちろんまだ歩き始めの僕がこのフロアを離れることなど許されてはいない。しかも点滴棒を引きずってだ。絶対に乗り込むところを見つかってはならない。

僕は歩行訓練をしているフリをして、このフロアをぐるっと2周した。もちろん横目でナースステーションの状況を確認する為だ。

案の定 看護師たちは引き継ぎのミーティング中でこちらを気にしてる様子はない。

今だ、僕は降りるのボタンを押しゆっくりと通り過ぎる感じにした。

早く来い!だがエレベーターはなかなか上がって来ない。何をしてるんだ、僕はエレベーターからだいぶ距離が離れてく。早く来てくれ、不自然にエレベーター前に留まる訳にはいかない僕は下の寝巻きを直すフリをして少し離れたところに留まった。早く来い、バカ!そう思った時 ようやくエレベーターは上へ向かって動き出した。よし、看護師はまだミーティング中だし、廊下には誰もいないぞ。10分で戻るぞ、こうして僕はエレベーターに乗り込んだ。

 

そしてコンビニへと速足で急ぐとあらかじめ決めておいた品々をかっさらうようにカゴに詰め、怪訝な顔の店員に差し出した。とっとと詰めやがれ、僕は急いで折り返すとまたエレベーターに乗り込み、廊下を確認しながら自分の部屋へと辿り着いた。

やったあ、これで長かったラマダンが明ける。3ヶ月に及ぶ戦いが終わるのだ。

僕は甘いチョコといくつかのパン、それにふりかけとなめ茸、塩を手に入れた。

これでやっと僕のラマダンが明ける。

手に入れた戦利品の5種のふりかけとビン詰なめ茸で、クソ不味い病院食を格段に美味しくさせるのだ。まずは朝食に出た目玉焼きについてきたソースはとっといて、代わりにふりかけのたまご味で塩味とたまご感を足す。次になんの味もしない鮭のソテーには、なめ茸を添えて明太子ふりかけで味付け。白菜とキュウリの超浅漬けには梅じそ昆布で一品料理に格上げ。そして激うすの味噌汁にはなめ茸と海苔カツオで出汁を効かせて海苔の風味に。夜食に出た味の付いてない揚げ春巻きと申し訳程度に下に敷いてあるこれも味付けなしのキャベツの千切りには、取っておいたソースをかけて食べるのだ。

おそらくこの病院でこのクソ不味い病院食を最も美味しく食べているのは僕である。